RESEARCER INTERVIEW

2020.07.27(仮)

"音"の研究者 Catcatus


 

新インタヴュー企画第一弾として、notie運営メンバーから同メンバーのcatcatus.にインタヴュー。

 

日頃からプロジェクトの話はするものの、意外にそれぞれの研究の内容やこれまでのことは聞いてこなかったかも!?ということで、今回は東京藝術大学で”音”についての研究を行なっているcatcatus.に話を聞きました。

 

(Twitterでも登場するこのアイコンは、猫好きなcatcatus. ならでは。)

音楽をはじめたきっかけ

 

 

-早速ですが、音楽に興味を持ったきっかけ、はじめたきっかけは何でしたか?

 

正直覚えてないのですが、幼稚園の頃、姉がピアノを始めたのを見て私もやりたいって言い出したそうです。その他にも姉は水泳にも行ってたけど、私はピアノだけやりたいって言い出した。ちょっとなぞだけど、きっと幼心に何か魅力を感じたのかなぁと思ってます。 

 

 

-なるほど、感覚的にピアノに何か惹きこまれるものがあったのかもしれませんね。音楽系の大学に行こうと進路を決めたのはいつ頃でしたか?

 

んー、そもそも高校から音楽系の高校、しかも楽理科だったんです。進路選択の時の私自身の考えは、ピアノをせっかく続けてきたのに手放したくないけどピアノの練習は嫌いで、でも勉強は好きだったから、じゃあ音楽の勉強で楽理科なら合ってるかな、と納得して音楽高校の楽理科を選びました。そこでなぜ一般高校を選ばなかったかって言われると、私の中で一般高校に行くという選択肢が思い浮かばなかったからなんです(笑)

実は高校に入ってから、音楽高校を選択したことと音楽の道に進むと決めたことは、家庭環境や親族環境、親の気持ちを汲んだからではないか、私の意思ではなかったのではないか、私の意思ってなんだ…って結構悩んだんですが、それはまぁ今は置いておきましょう。

とりあえず、なぜか一般を選ぶ気にならず、音楽系で私のやりたいことに近いのが楽理科だった、って感じです。 

 

(高校の頃、猫に邪魔されながら、英語の音楽書籍の和訳の予習)

 

 

-数ある芸術大学・音楽大学の中で、東京藝術大学を選んだのは何か理由があったのでしょうか?

 

高校で進路選択と音楽の道を進む選択をしたことで悩んだときに、今更音楽を手放せないから一生音楽に関わって生きていこうと決めてたのもあって、大学も楽理科の勉強を続けようと思ったんですね。

ただ、都内で楽理ってなると、国立音楽大学か、藝大しかない。藝大に受かるほどの頭があるとは思ってなかった私は、国立音大の公開授業をうきうき観に行ったんです!…が、当時の私は今以上に人付き合いが苦手で、国立大学生の明るい雰囲気には馴染めないと思ってしまった。ついでに、国立の英語の文章を読む授業を見に行った時に、授業の準備してないでわかりませんって言っている人に腹が立ってしまって(笑)私は高校でひーひー言いながら英語の本を頑張って訳して授業という名のレッスンを受けているのにって。今思うと高校の専科のレッスンと大学の授業だと、立場も考えも違うから一括りにして比較しちゃだめだと思うんですが、当時の私はこの人たちとは馴染めないって思っちゃったんです。今思うと極端な考え方だし、行ってみたら楽しかったんだろうと思うんですけどねぇ、若気の至りってやつですかね…?

話を戻しますが、国立音大を選択しないとなると、都内からでるか藝大かの二択になるんですが、知らない環境は怖かったので藝大受ける以外の選択肢がなくなってしまって…(笑)

仕方なく浪人の覚悟まで決めて藝大を受験したら受かってしまったんです、ええ、受かってしまって…慌てて大学に通う準備を始めました(笑)

 

(上野で一番好きなしだれ桜) 
藝大の校舎は、上野・千住・取手・横浜の4つある。

 

 

-都内で楽理科がある大学は限られてるのですね!私は声楽科出身なので、どこの音楽大学にもあり、悩みが違ったかもしれません。さて、紆余曲折あり、合格された藝大ですが、どんな学部時代を過ごされましたか?勉強されていたことについても是非お聞かせください。

 

藝大の楽理科に進学したんですが、入学当時は音楽の生理学や心理学に興味を持っていました。とはいえ、そんな授業は藝大にはない(笑)いや、調べてから受験しなよって話なんですが、まあそれはさておき、学部の時はせっかくだからって色々な授業をとりました。その中でも興味があったのは、日本音楽史と音楽美学でしたので、学部3年からはそれら系統の授業を多く取っていました。そのほかでは、コンサートのスタッフを引き受けたり、アウトリーチに関わったりもしました。

 

※アウトリーチ…お客さんにホールに来てもらって音楽を聴いてもらうのではなく、演奏者がお客さんのもとにいき(病院やいろんな施設に出向いて)音楽を演奏する取り組みのこと。

 

(上野の校舎にいく途中の好きな場所)

 

 

-様々な方面の授業をとると、視野とその後の選択肢が広がりますよね。学部卒業後、大学院修士課程に入ろうと思ったきっかけは何でしたか?就職は考えましたか?

 

両親が大学院を出てることもあって、私も研究の道に進むことになんら違和感がなく、学部入った時から修士課程に進むつもりでいました。学部4年になってもその気持ちが変わらなかったし、その時点ではまだ就職に惹かれていなかったので、そのまま進学の試験を受けることを決めました。

とはいえ、音楽を聴く人の心理に興味を持っていたので、楽理科の方針とはぴったり合わず、進学先はかなり迷いました。紆余曲折を経て、願書提出期限の間際に、藝大の音楽環境創造科(大学院では音楽音響創造分野)に進学することを決めました。願書提出期限の間際ですよ、遅いでしょう?(笑)だから、院の試験準備は本当にばったばたで、進学先を決めた時は同期に驚かれました、はい、驚いてもらえたことは楽しかったです。

 

(学部受験から毎年行っている湯島天神にて)

 

 

-願書提出の間際!笑 中々に思い切った決断ですね。大学院修士課程時代はどのように過ごされていましたか?分野が変わった研究内容についてもぜひお聞かせください。

 

自分の時間も増えたし、研究テーマを決めるにあたって自分のやりたいことに目を向ける機会が増えましたね。

そこで、学部の頃から興味を持ってたコンサートの勉強やアウトリーチのお手伝いや、コンサートに関わるアルバイトを多く行っていました。

 

研究は分野が変わったこともあり、基礎知識をつけたり、テーマを決めたりすることに時間がかかりました。文章の書き方から、先行研究の読み方、定義の違いなどなどにも分野の特色があって、困惑しっぱなしでした。

修士の時は、演奏者の「意図するフレージング(まとまりをつくること)」が演奏にどのように表れるのかについて研究していました。演奏分析を行う方法をとっていました。演奏を録音し、波形を見る作業をしていました。

 

(修士卒業の時)

 

 

-試行錯誤しながらの日々だったのですね。その後さらに博士課程に進学しようと考えたきっかけは何だったのでしょうか?

 

修士から分野を変えたことによって知識が不足していたり悩みを多く抱えたりしたこともあってか、修士論文がしっくりくる、納得のいく出来ではなかったんです。なので、これでは嫌だ、もっとしっかりとしたものを完成させたいと思い、研究を続けたいと思いました。

とはいえ、自分が博士課程に行けるという自信がなかったので、就職も考えていました、この時は。目に見えてお金という形で成果がでるし、同年代と違って学生を続ける引け目もあり、就職が魅力的にみえたのです。ですが、私の代は博士進学の試験を受ける人が少ないため受けたら受かる可能性が高いことと、親の「就職なんていつでもできる、今やりたいことをやれ」という言葉に後押しされ、進学の試験を受けることを決めました。

あとは「自信なんていくつになっても持てない人は持てない」とも言われまして、「たしかに!それなら自信がなくてもやってみて、やれたかやれなかったかで判断しよう」って思ったのも大きいかもしれません(笑)

 

 

-ご両親のお言葉、とても説得力がありますね...!大学院修士課程、博士課程に入るにあたっては、どんな準備が必要だったのですか?

 

修士課程へ入る時は分野を変えたので、偶然授業を受けていた先生にコンタクトをとりました。「以前授業を取った者ですが」って。そこから藝大は願書提出時に研究計画書や論考も提出するので、それを書いたり試験勉強したりしました。

藝大院試は一次試験に専攻に関する筆記試験があって、二次が音楽史の筆記試験(分野選択式; 西洋音楽史、日本音楽史など)と、研究計画書や論考への口述諮問なんですね。研究計画書や論考への口述諮問も大事なのですが、口述諮問は対策のしようがあまりないので、正直なところあんまりしてなかったです、ぶっつけ本番(笑)その分、一次試験の勉強に追われてましたね、一次試験終わったらよし二次!という感じで…、今考えても良く受かったなぁと思います。

あ、もちろん、二次の対策をしていなかったわけではなく、自分にとって苦手なものと対策のしようがあるもの、付け焼き刃ではどうにもならないものから対策していたはずです。

…実は忙しすぎてあんまり記憶に残っていないんで、これ以上は覚えてないのが本音です、すみません…。

 

博士課程への進学は、内部進学だったのもあって、修論と先生との面談が受験のほとんどだった気がします。いや筆記試験と口述諮問も受けましたけど、それ以上に博士課程だと、どの研究室でどんな研究を行うかその研究の実現可能性はどのくらいかに重きが置かれている気がしています。あくまで個人の見解ですけどね。…あれ?答えになっていますか…?

 

(北千住の校舎に桜があることに暫くたってから気が付いた)

 

 

-さて、ここまでたくさん質問させていただきましたが、現在の博士課程はいかがですか?何について研究をされているのですか?

 

博論は、音楽ではなく音単体を扱っています。音そのものをひとつ聴いたときに、その音が物理的に鳴り始めた時と人間が知覚上鳴り始めたと感じる瞬間が一致していないことが知られています。私は知覚上鳴り始めたと感じる瞬間って音のどんな要素で決まるの?っていうことを研究しています。博論では音の要素として立ち上がり時間と持続時間を取り上げ、これらの音の要素が知覚上鳴り始めたと感じる瞬間をどのように変化させるかを明らかにしたいと考えています。

 

博士課程に所属している私の心情としては、つらさが半分、充実が半分ですかね…。収入ないのに学費が出ていく不安と、期日までに本当に自分が博論を完成させられるのかという不安と…。考えてもどうしようもないから考えなければよいのにどうしても考えては不安になってつらくなります(笑)

正直なところ、博士課程に所属していると、不安も大きく精神的に不安定になることもある。それでも、私は、人よりどんなに時間がかかっても、博論を世に出して修了しようと考えています。なぜっていうと、今、学業に専念できる環境に自分がいるのは本当に恵まれたことだから。今までの人生の中で、運良く受験に成功したり、先生や同期、先輩や後輩に恵まれたり、選んだ環境が予想を裏切らず整っていたり、サポートしてくれる親がいたりと…、周りのおかげで今自分が博論に挑めている。すっごい不安になるし、未だに自分の力は信じられないし、修了できないじゃないかって不安に思うけど、それでも、恵まれた環境にいる私が、努力し、博論を完成させるのは私の責務かなと思っています。…人よりも時間はかかっていますが(笑)

 

(最近読んだ研究に使う本)

 

 

-それでも自分の意志を貫いて、納得するまでやり切るというのは大切なことですよね。疲れた時や考えすぎた時に、リラックス法やストレス解消法などがあれば教えてください!

 

疲れて電池が切れた時は、寝るか、ぼーっとするか、携帯ゲームをするかですね。ほんとは電池が切れそうになる前に積極的にリフレッシュしたいんですが、気が付くと電池切れちゃっているのと、自分にとっての積極的リフレッシュ方法が見つかっていないのとでなかなかできていません…。

 

(上野公園内で、通学という名の散歩)

 

 

-さて最後になりましたが、将来やりたいこと、夢についてお聞かせください!

 

あまり具体的に決めてなくて、方向性だけを決めています。研究と、音楽文化振興の活動、この二つを並行して行う、と。

 

具体的に決めたところでその通りには行かないだろうから、やりたいことや方向性だけ決めておいて、あとは日常でアンテナ張って見つけたチャンスに飛び込み続ければ何とでもなるだろうと思っています。

慎重派だと思っているけど若干ギャンブラーの考え方ですかね?(笑)

ま、そんな考えだから、将来のことは具体的には何も決めず、ざっくりの方向性だけ考えています。

 

前者の研究に関してはその時にポストがあるかが運次第だし、博論が終わらなきゃどうしようもないので、とりあえず続けたいとだけ決めています。

 

後者の音楽文化振興に関しては、もっと多くの人が音楽や文化に触れるように、もっと多くの人が音楽や文化を積極的に楽しむようになるといいなと思っているので、それが実現できるような活動をしたいと思っています。

もう少し具体的に言うならば、音楽や文化に触れることで物事の多角性・多面性を実感してもらいたい。音楽や文化の歴史を体感してもらいたい。

人間一人の考え方ってどうしても偏っちゃうものだと思うのですが、芸術はいろんな考え方を許容するし、歴史は考え方の変容を含んでいる。一人では得られなかったものの見方や考え方を知ることができる、人とつながることができる、そういうものだと考えています。

だからこそ、今よりもっと多くの人に触れてもらって楽しんでもらうことで、今よりももっと多くの物の見方や考え方を知って多くの人とつながることができるようになる、それは一人では生きていけない人間にとってあると良いものだろうと考えて、このようなことが実現できるように活動をしたい、そう考えています。

 

そのために、博論と並行して、今やっているこのプロジェクトを続けて、また新しいチャンスが来たらそれも掴んで、活動を絶やさず、博論が終わった時に活動の幅を広げられるようにしていきたいと考えています。

 

 

- 音楽や文化に関するお気に入りの物とそのお気に入りポイントを教えてください。

 

そうですね、書籍に限っていうならば、高校の教科書や授業で使用した『楽典『音楽史17の視座』はじめての音楽史』はとくに愛着がありますね。

藝大受験の楽典科目は『楽典』の一冊を参照して乗り切りましたし(9割は解けた自信があります)、『音楽史17の視座』で音楽と哲学、音楽と当時の価値観が強く結びついていることを初めて知りました。また、『はじめての音楽史』は高校の音楽史の授業の教科書として用いられており、強く記憶に残っています。この本は未だに音楽史の何かを調べるときに参照することがあります。 

『楽典』の本は独学者には少し難しいですが、2つ目と3つ目の本はかなりおすすめです!

楽典

『音楽史17の視座』

はじめての音楽史


-プロフィール-

 

Catcatus

東京藝術大学卒業。現在、同大学大学院博士課程に所属。 

研究と並行して、文化を大切にし主体的に関わる人が増えてほしいとの想いから、

音楽イベントや演奏会の企画・制作を行っている。

Twitter:https://twitter.com/catcatus